グリーンベイ・パッカーズ ニュース
2011年2月15日
3月3日いっぱいまでに新労使協定を締結できず現労使協定が失効した場合、3月4日からロックアウトに突入することがほぼ確実とみられている。そこで、労使交渉の現状やロックアウトの影響について、管理人にわかっている範囲で以下に書き出してみた。
- ロックアウトとは、オーナー側が球団施設から選手たちを締め出して操業停止とすること。逆に選手たちがストライキをした場合、オーナー側が代替選手を雇ってシーズンを続行したことが過去にはある(1987年に数週間)。今回はストライキではなくロックアウト。
- 先週は2日間予定されていた交渉セッションが1日で打ち切られ、楽観に傾いたムードが再び冷え込んだところ。これで失効が16日後に迫ったとはいえ、交渉ごとで16日間といえば非常に長い時間だ。こうした交渉は締結直前まで「合意には程遠い」 「とんでもない隔たりがある」などとメディアの面前で罵り合うもので、まとまるときは急転直下が当たり前。罵り合いがブラフなのか本当に隔たっているのかは、結局のところ締結されるまで外部からは分からない。
- 人気商売だけに両者とも世論の支持を重視しており、宣伝合戦の面は大きい。「相手がこういうオファーを蹴った」などとすかさずリークするのはそのためで、なにひとつ計算づくでないものはない。つい昨日も、「交渉の席でパンサーズのオーナーがペイトン・マニングやドリュー・ブリーズの知性を侮辱した」とKジェイ・フィーリーが暴露したばかり。
- 最大の争点は総収入のうち何%を選手サラリーとするかであり、その他は枝葉といっていい。ただし、「総収入」にどの収入まで加えるかも争点になる(これまで各球団独自の取り分だったボックス席収入やラジオ契約やスポンサー契約など)。どこまでをレベニュー・シェアリングの対象とするか、オーナー同士で意見は分かれているが、今のところそうした不和は隠しおおせている。
- オーナー側は新協定案を承認するのに32票のうち24票が必要。つまり9人のオーナーが反対すればつぶすことができる。いっぽう選手会側は過半数の支持があればいい。
- 「シーズン中止の危機」などと先走る向きもあるが、たとえロックアウトが始まったとしても、ゲーム開催にまで影響が及ぶ可能性はかならずしも高くない。まずは3月のFA市場(後述)やオフシーズンプログラム、4月・5月のミニキャンプやOrganized Team Activities(OTA)などが順々に中止となっていく。新コーチ陣を迎えたチームにとっては、来季への準備期間が短くなって不利になりそう。
- ロックアウトとなった場合、3月4日に始まる予定のFA市場もトレード市場も開かない。そのため、さしあたって最も影響を受けるのは490人(過去最多)ほどいるFA予定選手だ。たとえば交渉締結が7月までずれ込めば、FA解禁からキャンプ開始までの期間が短く、FA市場が不活発になりかねない。このFA予定選手たちが選手会に交渉締結への圧力をかけてくれれば、とオーナー側は期待している。
- ロックアウト下でも、ドラフトは行われる。ただしその場合、選手を含めたトレードを行うことができず、指名権トレードだけとなる。ドラフト終了後にドラフト外選手たちと契約することもできない。
- いつもは「3月のFA補強のあと4月末のドラフト」だが、締結が遅れれば順番が逆になりかねない。先にドラフトでニーズを埋めてしまえば、大物選手に群がるチームが減って金額もダウンするのが当然だろう。
- ロックアウトになると、その間は薬物禁止規定や個人行動規定も停止になってしまう。不祥事を起こして逮捕されても、リーグ側は処罰することができない。
- ロックアウトの間、選手は各自でトレーニングするほかない。毎年WRラリー・フィッツジェラルド(ARI)が主催しているような、球団の壁を超えた合同自主トレ的な練習があちこちで行われるのではないか。
- オーナー側の最大の武器であるロックアウトを阻止する捨て身の力技が選手会側にはある。(法的な難しいことは管理人にはさっぱりわからないが)選手側は組合を解散した上でオーナー側を反トラスト法違反で提訴することでロックアウトを阻止できるらしい。レギュラーシーズン中盤に各球団の選手会が投票・承認を行っていたのはそのための下準備。組合を解散する権限を選手会本部に与えることで、いつでも伝家の宝刀を抜くことができる。解散などできっこない、ブラフに過ぎない、とオーナー側は嘲っている。
- 即ロックアウト突入しない選択肢はオーナー側にもある。「交渉の行き詰まり」を宣言し、オーナー側の最終(つまり最高額)オファーである協定案を仮実施する、ということが可能らしい。そうする可能性は低いが、もしそうなれば、選手会側に世間の圧力が高まるかもしれない。
- たまに誤解している人がいるが、サラリーキャップがなくなる心配はまったくない。理由は以下のとおり。
- 2010年シーズンにサラリーキャップがなかったのは、(現行)労使協定の中で「労使協定の最終年はサラリーキャップなしとする」と規定されていたため。昨年1月の記事で述べたようにたくさんの規定が付随していたため、サラリー高騰は起きなかった。
- 誰もサラリーキャップの廃止など望んでおらず、提案も脅しもしていない。争点となっているのは、「収入の何%を選手サラリーとするか」であり、つまりサラリーキャップ存続を前提とした議論。
- 新労使協定なしでフットボールシーズンを行うことはまったく不可能。ということは、2011年シーズン開催イコールサラリーキャップ復活となる。
- 労使協定には、サラリーだけでなく、NFLの選手生活に伴うありとあらゆる事柄が規定されている(全文PDF)。労使協定なしでシーズンを行うことはできないのはそのため。
- 解雇されてすでにFAになっている選手(CLEのDTショーン・ロジャースなど)は、ロックアウト突入までは自由に交渉して契約できる。
- サラリー高騰が批判されてきたドラフト上位指名選手のサラリー抑制案は、新労使協定の中に盛り込まれることが確実。どれぐらい抑制するか、両者でまだ意見が分かれているとはいえ、抑制が必要であることでは一致しているからだ。
- NFLにおいては、選手たちの給料はレギュラーシーズンの17週に分けて支払われる。キャンプやOTA参加は、交通費・宿泊費・食事といった実費プラスわずかな日当だけ。そのため、ロックアウトがシーズンに食い込んで初めて大きな出血が始まる。(前述のようにFA予定選手は別)
- ロックアウトに突入した場合(たとえ春の間だけでも)、チケット売れ行きが鈍ったり、スポンサー契約がうまくいかなかったり、オーナー側への金銭的影響はかなり大きいと見られている。
- TV放映権の契約に、「たとえロックアウトでゲームが中止となっても放映権料は支払われる」との規定を盛り込んであるのは、オーナー側にとって大きな強み。しかしその規定の是非も係争中で、今月24日にミネソタの連邦地裁で審問が行われ、3月3日に裁定が下される見込み。
- 全32球団の中で、詳しい経営状況を明らかにしているのはパッカーズだけ(昨年の例)。選手会側は「帳簿を見せろ」と要求するが、オーナーたちはどうしても経営状況を明らかにしたくない。下級職員を解雇しながら自分たちがどれだけ利益を手にしているかバレてしまうと、交渉が一気に不利になるのは明らかだ。
以下は余談。というか私見というか。
NFL球団の経営について、日本のプロスポーツの状況をもとに想像するのはとんでもない間違い。NFLは世界でもっとも経済的に成功したプロスポーツリーグであり、(ボーナス支出が特別に多い年を除いて)毎年全球団が何億円(チームによってはもうひとケタ上)も黒字を出すのが当たり前、という状態が長く続いてきた。その利益は、(すべてをチーム強化に還元できる)パッカーズを除いて、すべてオーナーの懐に入る。
「このオーナーは1000億円も資産があるのだから、これ以上金が欲しいわけはない」などというのはわれわれ貧乏人の誤った思い込みにすぎない。アメリカの富豪は自分の強欲さをむしろ自慢にしていて、だからこそ自分は競争を勝ち抜いてこれだけの財を築けたのだ、と誇りに思っているのが普通。「あいつはForbesランキングの全米何位」などとライバルを意識し、もっともっと資産を増やしたいと執念を燃やしている。景気が悪化したとたんに球団職員を何十人も解雇するのは、赤字になるからではなく、儲けを減らしたくないからだ。グループによるオーナーであっても事情は同じ。
強欲な大富豪たちも、「地元ファンに尽くす太っ腹なオーナー」と世間に思われたいのが人情で、経営状況を明らかにしないのはそういった事情もあるのだろう。また、比較的裕福でなくチーム優先の「古き良きオーナー」タイプであっても、その息子たちがそうであるとは限らない(いずれ資産を兄弟で分け合わなくてはならないので)。 代替わりで多額の相続税→球団を手放す、というパターンに陥らないためにも、利益を上げていく必要が常にある。
カテゴリ : NFL