3年前、故郷ナイジェリアの親戚を訪ねた際にRBサムコン・ガドーが出会った従妹は、病を押して出産したが、やがてエイズでこの世を去った。生まれてきた子供もエイズだった。アフリカの貧しい国ではエイズに苦しむ人々が多くても、診療所も医師も足りず、アメリカの高価な薬にはとても手が届かない。「こういった話はそこらじゅうにある。僕の従妹のことは決して特別な例じゃない」
こうして医学の道を志したガドーは、将来はナイジェリアに戻って故郷の人々を助けたいと願っている。「僕はあの状況を、自分の目で見てしまったんだ。あれを見過ごすなんてとんでもないことだ」と彼は言う。リバティ大では医学部進学コースを選択し(アメリカでは医学部は大学院から)、優秀な成績で卒業した。フットボールで道が開けた現在では医学部進学は一時中断の状態だが、何もしないでいるわけではない。今オフはトレーニングのかたわらグリーンベイの病院で働いているのだ。
仕事は週に3日、朝5時からのシフトが多い。看護士の地味な仕事を、彼は着実にこなしている。もちろん身分は隠しているので、パッカーズのシンデレラボーイが来た、と病院内で騒ぎになることはない。「自然に溶け込みたくてね。人に見せるためにやっているわけじゃないから。『おい、パッカーズ選手が働いてるぞ!』なんて言われたくない。僕はただ経験を積みたいだけなんだ。また来年もやるつもりだよ」
ほとんどはうまく隠し通せているとはいえ、患者が彼に気がついてしまうこともなくはない。彼を最初に見つけたのは、手術を終えたばかりの男性だった。その妻がガドーのところに来て、「夫はあなたがサムコン・ガドーだと言い張っているんです。本物ならこんなところで働いているわけないって私は言ったんですけど。それに夫は手術が済んだばかりで、まだ麻酔で朦朧としているし・・・」と言うので、ガドーは仕方なく夫の主張を認めたのだった。「えっでもあなたここでいったい何を?」
何をやっているかと聞かれれば、ありとあらゆることをちょっとずつ、と答えるほかない。血圧や心拍などのヴァイタルサインをチェックしたり、患者をベッドから助け起こしたり、トイレを助けたり。採血は以前は緊張したが、今ではラクラクとこなすようになった。「はっきりと静脈が浮き出た人ばかりじゃないからね。目だけではわからないから、感触だけを頼りに針を刺さなきゃいけないこともある」
仕事は楽しいことばかりではないが、医師として重要な、患者との接し方はずいぶん向上したとガドーは言う。「患者への思いやり、上手な接し方というのは、もともとできる人とできない人がいるのだと聞いている。もともとの僕の能力が高かったかどうかは別として、おおいに向上したのは確かだよ」