グリーンベイ・パッカーズ ニュース

2012年9月16日

NFLオフェンシブラインマンの世界

開幕直前にJournal Sentinel紙に掲載されたRGジョシュ・シットンのロングインタビューが興味深かったのでここで紹介したい。

NFLのオフェンシブラインマンに最も重要なのは、ランブロッキングに必要な力強さだという世間の認識を、彼は強く否定している。「今はもうそうではない。ディフェンス選手はどんどん速くなり、アスレチックになってきている。となると、こちらは優れた足が必要なんだ。クイックな足がね。NFLに来るようなラインマンは誰でもある程度のパワーがある。もちろん、並外れて強い選手やその逆の選手もいるが、それはひと握り。いまフットボールはスピードの世界になってきているんだ」

今年2月のスカウティング・コンバインでは、ガードの平均サイズが身長6-4½・体重314ポンド。シットンより1インチ高く、体重はほぼ同じだ。しかもたいていのラインマンはNFL入り後に体重を増やしていく。 「でも僕は、今年のオフシーズンにはいったん300ポンドまで絞ったよ。今は315ポンドまで戻している。僕よりもサイズのあるガードはたくさんいる。僕は大学時代の方がずっと強かったぐらいだ」

相手DLをフィジカルで圧倒する、という考え方をシットンはあらためて否定。 「大学フットボールの世界ではパンケーキ・ブロックの数がカウントされる。しかしNFLではそんな話は全然聞かないだろう。"Mauler" (パワーで圧倒する巨漢ラインマン)はこのリーグにはもう多くないんだよ」

「NFLでは誰でもものすごいパワーがある。毎試合、体がボロボロになる気がするものだよ。僕のポジションは必ずそうなるんだ。振り回され、叩きつけられる。タフな仕事だ。体は本当にボロボロになる」

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彼は過去3年連続でディビジョン最高のガードとみなされ、ヒザの問題に苦しんだ昨季もNFL8位(Pro Football Weekly)のガードと評価された。明るいが控えめな態度を崩さず、スタント(DLが交差して攻めてくる)相手のブロッキングの巧みさを聞かれても、「僕はここでセルフ・プロモーションをするつもりじゃないから」と言う。

代わりにジェームズ・キャンペンOLコーチに説明してもらうと、実際のサイズよりも大きくプレーできることがシットンの良さだという。 「それに、彼は非常に認識力が高い。相手がしてくることを、それが起きる前に感じ取ることができる。おどけた野郎ではあるけど、すごく知的な男なんだ。映像を見れば一度で理解してしまう」

NFLのフットボールは複雑になる一方だが、自分の仕事ぶりが単純な尺度で測られることにシットンは満足を覚える。 「ブロックに勝つか、ブロックに勝てないかだ。細かなテクニックはいろいろ言われるけど、僕は勝ちさえすればテクニックなどどうでもいい。マッチアップ相手が大きなプレーをすれば、当然自分にもわかる。そんな映像は残したくないよね。自分がやられた後にジャンボトロンで見せられるなんてイヤさ。今年はランボーのスクリーンも巨大になったことだし」

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「プレーが終わったら、素早くハドルに戻るよう僕らは教育されてる。口を閉じ、クォーターバックの言葉に耳を傾ける。仕切っているのは彼だからね。このチームではとくにそうだ(注 : オーディブル権限も大きい)。僕らは耳を澄まし、目をしっかり開けていなければ」

パッカーズの複雑な用語でQBアーロン・ロジャースがプレーを伝達すると、選手たちは手を叩き、"break" と小声で言って、スクリメージラインに向かう。シットンは相手ディフェンシブラインが3人か4人かをチェックする。たいていの場合パッカーズはOL同士の間隔が一定だが、そうでないプレーもある。ガードたちに2ポイントスタンスを許すチームも中にはあるが、マッカーシーHCとキャンペンOLコーチは「ガードはボールから遠い方の手(RGなら右手)をついているべき」と信じ、実行させている。毎回同じバランスで構えることが目標とされる。

「1stダウン10でランをやるときでも、手に全体重をかけるわけにはいかない。相手にランだとバレでしまうからね。しかし常にうまくやれるわけじゃない。NFLの連中は本当に頭がよく、フィルム分析も大量にやってるから(癖がみつかることもある)。ただ3rdダウン10になれば、相手もパスだとわかっているだろうし、僕はスタンスをすこし軽め(体重を後ろ)にするよ」

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NFLのランプレーはゾーンとパワーに大別される。パッカーズはゾーンブロッキングのスキームであるため、ガードがプル・ブロックしてリードブロッカーになるようなことは滅多にない。

センターと右ガードの間の"Aギャップ"を突くランプレーを選択し、相手が3-4ディフェンスだとしよう。相手NTはCサタデーと正対し、ストロングサイドILBがRGシットンの4.5ヤード先に、左DEはRTブラガの正面にいる。こうした練習はキャンプで数えきれないほど繰り返し、シーズン中も週に何度か行っている。「何度も繰り返してるよ。そのために練習ってもんがある」

スナップ前にはラインマンたちが符牒を使い、誰が誰をブロックするか確認する。相手がベーシックな隊形であれば、そうしたコールが不要のこともある。ガードはセンターから数フィートしか離れていないため、(顔を向けなくても)周辺視野でボールを捉えることができる。RGシットンによると、NFL選手であってもスナップカウントを忘れることはあるという。そうなったら顔を左に向けてボールを見なければならず、右サイドからLBがブリッツしてきた場合に不利な状況に陥る。

QBロジャースはハドルであらかじめハードカウントの予告をすることもあるが、そうでないことも多い。 「完全に集中していないと対処は難しいよ。だって、フィールドではいろんなことが起きているからね。ディフェンス選手がフォルススタートを誘おうと怒鳴ることもある。まあそれは審判があまり容認しないけど」

さていよいよCサタデーがボールをスナップする。相手がとくに動かないとすると、Cサタデーはノーズタックルの相手をし、RGシットンも加わってダブルチーム・ブロック。2人合わせて600ポンドが、310から330ポンドの選手に当たる。 「大事なのは目標のポイントにしっかり到達することだ。すべてはフットワークから始まる。完璧なフットワークは大いに助けになるし、その次は適切な場所に両手を当てること」

相手NTをダブルチームしながらも、RGシットンは自分の正面のILBから目を離さずにおく。相手NTは、ILBがフリーでボールキャリアーに向かえるよう、2人のブロッカーを引き留める努力をする。 「僕としては、どの時点でダブルチームを離れるべきか感じ取ることが必要だ。あまり早いと相手NTにセンターへの良い角度を与えてしまう。遅すぎると、ILBが目の前に来てしまっている。ILBが勢いよく飛んできたら、僕はそちらに向かう時だ」

時には目の前のブロック対象がおらず、まっすぐ235ポンドのILBに向かっていけることもある。その場合は別のスキル・セットが必要になる。 「小さい相手はそのぶんクイックだ。(相手を逃さず)しっかり捕まえないと。ラインバッカーを突き飛ばすにはちゃんと足腰を動かすことが大事だ」

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左へのアウトサイド・ゾーンのランでは、RGシットンはバックサイドで相手DTをカットブロックすることを求められることが多い。 「ディフェンダーをカットできれば、相手は足場を失ってタックルなどできない。ただ、そううまく行かないことが多いんだ。バックサイドのブロックは、フロントサイドと同じか、時にはより重要であることもある。(バックサイドがうまくやれば)ランニングバックはこちらへカットバックすることができる」

パッカーズが5回のNFL制覇を果たした1960年代には、ディフェンスは60分間ほとんど変わらないものだった。しかし現代のディフェンシブラインはスナップと同時にスラント(斜めに動く)やスタントすることも多く、オフェンシブラインたちは瞬時のアジャストメントを強いられる。 「自分がスナップ前に(ブロック確認の)コールをしても、スナップ後には別の形のブロックをしなきゃならなくなる。それがフットボールだ。相手が毎回おなじ場所にラインナップして何も動かなければ、僕らは1試合に100得点できてしまう」

ゴールライン・オフェンスでは、下に潜り込もうとするたくさんの敵を相手にブロックをしなければならない。 「自分がエンドゾーンに入ろうと頑張ることだ。自分がエンドゾーンに入れれば、RBも入れるから」

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パスブロッキングでは、RGシットンは入団直後から素晴らしい能力を示していた。セントラル・フロリダ大から2008年4巡指名で入団すると、1on1のパスラッシュドリルではまるでベテランのような動き。トレーニングキャンプでのパスラッシュドリル成績は、2008年が16勝2敗3分(チーム2位)、2009年が19勝1敗3分(1位)、2010年が8勝2敗1分(7位)、2011年が16勝1敗4分(1位タイ)、そして2012年が11勝0敗1分(1位)だった。

「僕はとにかく相手にしっかり両手を当て、両足が相手の正面に来るようにし、自分の体が相手の正面に来るように努力してる。相手をアーロンに近づけさせないように。これもやはりフットワークから始まる。フットワークがおかしくなると、バランスを取るのに力を使わなければならなくなる。良いフットワークが必要なんだ」

「パスプロの一流とそうでない選手の違い? ブロッキングを最後までやり通すことだね。大学では、最初の動きさえ封じればそれで仕事は終わりだった。両手を相手に当てさえすればゲームオーバー。相手は第二、第三の動きを繰り出す能力はないから、最初に止められたらそこで止まってしまう。しかしNFLでは最初に止められても動き続ける。両手を当てられてもそれを振り払ったり、スウィム・ムーヴやスピン・ムーヴやリップ・ムーヴを繰り出してくる。だから第二、第三の動きまでしっかりブロックできる能力が必要なんだ」

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スクリメージラインに向かうとき、RGシットンの目は相手パスラッシュの手がかりを探している。プロテクションのコールはハドルで伝えられているが、QBロジャースやCサタデーによりスナップ前に変更されることもある。センターが誰か相手を指差している場面を、ファンのみなさんもよく見かけるはずだ。それはたいていラインバッカーの番号を叫んでいるのであり、5人のうち誰がそのLBを担当するかを指示しているのだ。時には、相手ディフェンスを混乱させるためのダミーであることもある。

「フットボールのゲームは精神的緊張のかたまりだよ。スナップ寸前に何かをコールされることがすごく多いんだ。若手選手にとって一番大変なのが、そうしたゲームのスピードについていくこと。目で見て、耳で聞いて、それを実行する能力だね」

自分がブロックする選手は、相手のブリッツやスタントしだいで変わってくる。最初は平凡な4メンラッシュに見えても、DEがRGシットンに向かってきて、DTがループしてRTブラガに向かっていく。

相手が3メンラッシュの場合はオフェンシブラインの仕事が楽になる。RGシットンは自分の相手がいなければ周囲を見回し、フリーで入ってくるブリッツァーに備える。それを見逃すと試合の流れを変えるサックになりかねない。

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アクティブなパスラッシャーに受け身のブロッカーが対抗するのがパスラッシュの勝負。ディフェンダーは大変なエネルギーを発散しているが、一息入れてしまうプレーもなくはない。 「そう、連中は意気地なしばかり(笑)。330ポンドの相手を止めるのは大変な仕事なんだよ」

待っていればいいオフェンシブラインと違って、パスラッシャーの方が優れたアスリートだとディフェンス選手は主張しがちだ。 「それはアスリートの定義にもよるね。彼らが速く走ったり高くジャンプできるか? そりゃそうだ。しかし330ポンドの相手と向かい合い、スローダウンさせたり動かしたりするのは容易じゃない。オフェンシブラインをプレーするにはすごくアスレチックでなきゃいけない」

スクリーンパスやプレーアクション・パスは相手ディフェンダーを欺くチャンスだ。 「プレーアクションはオフェンスをすごく助ける。ジョー・フィルビン(現ドルフィンズHC)がいつも言っていたけど、プレーアクションは低い姿勢と動きのスピードが大事だ。こちらが速く動くほど、相手LBにはランプレーに見えやすい。いったんランに思えたところからパスに切り替えるのは、ディフェンシブラインにとってすごく難しいんだ。そうなるとこちらはブロックするのが楽になる」

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「オフェンシブラインは指や手をいつでも痛めている。嫌なことだけど、これもフットボールの一部だ。プレーの間はそんなこと考えていられない。思い出すのは試合の後だ」

コイントスから3時間あまり経過し、RGシットンはロッカールームに戻って指のテーピングを剥がす。精神的にも肉体的にも疲れ果てている。仲間とのバックギャモンやビデオゲームであまり勝てない彼にとって、ビクトリー・サンデーに勝る喜びはない。 「そう、まさにそのとおりだよ。最高の報酬は、クロックがゼロになり、自分がよいプレーができたと振り返るときだ。フットボールで最高の気分だよ。それ以外のすべてはハードワークまたはストレスだから」

カテゴリ : Football, Player