11月の第4木曜日といえばこの時期のアメリカの一大イベント Thanksgiving Day だ。家族と過ごす為に実家に帰ったりする様は、まさに日本のお盆と重なる。アメリカに家族がいるわけではない私はちゃっかりルームメイトの実家にお邪魔することにした。向かった先は Bruce, Wisconsin。グリーンベイから西へ車で4時間ほどの所にあるこの街は、人口700人ちょいの超大都市だ。街には飲み屋しかない。ターキーをご馳走になった後はお決まりの Food Coma におちいり、一日中のんびりと過ごす。
翌日は Black Friday 。この日から全米中のデパートで大セールが始まりクリスマスまで続く。初日のこの日は目玉商品が相次ぎ、朝4時から営業を開始するところもあり、お目当ての商品を購入する為に徹夜で並ぶ人もいるほどだ。店側にとって確実に黒字を見込めるこの金曜日は通称 Black Friday と呼ばれている。まぁWisconsin でそんな早朝から開店待ちなんてしたら、店が開く頃には風邪を引いて逆に高くつく気もしないでもないが。
買い物にはまったく興味のない私だが、部屋にある猟銃には興味しんしんだった。実は今Wisconsinは鹿狩りの時期の真っ最中なのだ。TVのニュースでもたびたび鹿狩りの話題は上がっており、獲物を手にした地元の住民がインタビューに答えたりなんかしている。そんな時期に本物のハンターに出会ってしまったのだからもう付いて行くしかないだろう。朝食を済ませるとさっそく身支度を始める。寒いのは当たり前なので服を何枚も重ね着する。私の履いていたブーツでは寒いということでその倍くらいの大きさのあるブーツを借り、仕上げにオレンジの蛍光色のジャケットと帽子を装備する。これで他のハンター達に鹿と間違えられて撃たれることはないだろう。ないと思いたい。
車を山の中へ走らせ小屋に着いた。この小屋にはテレビの他、ベッド、台所まで完備されていてここで仲間達と泊まり込みで狩りをすることもあるらしい。そこから少し歩き、いつものポイントで鹿を待つ。バーン・・・。残念ながら今回は何も収穫を得ることができなかったが、家に戻って小屋をのぞくとそこには数日前に狩られた哀れな鹿の姿があった。
現在ここまでの戦績は5勝6敗。毎週のことだがこの試合も絶対に負けられない試合だ。11月も終わりに近づき外はだいぶ冷え込んできている。そこで今回はパッカーズのジャケットの代わりに、鹿狩りの時に借りてきたオレンジの蛍光ジャケットを着て行くことにする。実際この時期のランボーフィールドではオレンジの蛍光ジャケットを着込んでくるファンをあっちでもこっちでも見かけることができ、一種の風習になっている。
今日の試合は正午開始だが朝8時半に家を出る。実は今回の試合は知り合いがこぞって観戦することになったのでテイルゲイトパーティーをすることにしたのだ。初テイルゲイトパーティー参加。ランボー北側の広場に車を停めて簡単な準備をした後、Bratwurstをグリルしたりチップスをつまみながら朝の9時から飲み始める。これは楽しい。周りにも同じようにパーティーをしているグループもある。パッカーズグッズに身を固めたファンが次々にランボーフィールドへ向かう中パーティーは続く。
途中フットボールで遊ぶことにした。私の役割はWR。ちなみにフットボールのプレー経験はない。合図で駆け出した私が30yardsくらい走った後で振り向くと上空にフットボールが。取れるわけがない。結局6回も7回も繰り返したあげく1度もキャッチすることができなかった。今日はパッカーズのWR陣が落球しても大目に見ることにする。
そして11時30分頃ランボーへ向かう。午前中にずっとテイルゲイトパーティーを楽しんでいたのにこれからもっと大きなパーティーが始まる。こんなに楽しい一日はない。試合は前半は少々劣勢だったが後半にはモメンタムはうちにあった。もうお祭り騒ぎだ。そして午後3時過ぎ、朝から続いたパーティーは突然終わりを告げた。あと2分で勝利だったのに。まさかの逆転負け。(Box Score)
天気予報がずれ込み第4Qから降り始めた雪は勝利を祝う雪だと思っていたのに。試合終了と同時に吹雪いてきた。目が虚ろになるとはこのことだろう。動けない。優勝争いから一気に引き離される一敗。何がどうなったのかよくわからない。目の前で起こったことなのに信じることができなかった。車へ向かう足取りが重い。午前中テイルゲイトパーティーをしていた場所を通る。できることならあの時間まで戻りたかった。
前日、雪がだいぶ積もっていたのでパッカーズ公式サイトをチェックする。あった。今シーズン初のランボー名物雪かきアルバイトの募集だ。時給8ドル。朝10時から開始らしいので当日9時30分頃ランボーフィールドに到着する。すでに結構な人数が並んでいる。募集人数は300人。前にいる人数を気にしながら、10時になり少しずつ前に進んで行く。西側のゲートから中に進み受付が見えてきた頃、私の50人くらい前で見事にシャベルはなくなった。なんてこった。30分前じゃ遅かった。さてここで決断を迫られる。帰るか、残るか。雪かきは好きな時間だけしていつ止めてもいいので、止める人の代わりに次の人が入れる仕組みだ。次はいつ募集があるかわからないので残ってシャベルが返ってくるのを待つことにする。周りの人は次々に帰っていく。私の後ろにもざっとみて200人以上が並んでいたが大部分は帰っていった。
待っている人達の大歓声に迎えられながら始めの15分で2人が戻ってくる。しかしここからが長かった。まったく戻ってこないのだ。周りの人も待ちきれなくなり次々に脱落していく。あまりに戻ってこないので一体何のためにその場に立っているのか忘れそうになる。そしてやっと1人戻ってきて思い出すといった感じだ。しかも寒い。すぐに雪かきを始める気で来たので、あまり着込んでこなかったのが裏目に出た。途中で帰ろうかとも思ったが、すでにだいぶ待ってしまっているので帰るに帰れない。お金は要らないのでシャベルを持参させてほしい、というのが待っている人全員の共通の想いだっただろう。
こうしてやっと自分の番が回ってきたのはちょうど12時になった時だった。この時すでにあまりの寒さのため風邪を引く兆候を感じていた私はシャベルを手にするとすぐに雪かきを始めた。12時の時点ですでに半分ほどの雪かきは終わっていたが、シートの合間を行ったり来たりしながら残りを必死に雪かきする。体を温めるために。雪をシャベルに乗せて通路にある簡易滑り台に雪を放り込むとザザーッとフィールドまで雪が滑っていく。滑り台の周りのシートの雪がなくなったら皆で力を合わせて簡易滑り台の移動。そしてまた雪かきを始める。何度繰り返しただろうか。ある程度終了に近づいてきたので切り上げることにする。時間は13時15分。1時間15分の労働で10ドルになった。お腹も空いたし温かい物を食べに向かう。この日のランチ代は10ドルちょうどだった。
シーズンは残りあと4試合で5勝7敗。もう負けられない。首位ヴァイキングスとは2ゲーム差。あと1敗したらもう今シーズンは終わりだろう。今日の相手はそれほど強いとは言えないテキサンズ。しかもホームゲーム。崩壊しているチームを立て直すには絶好の相手だ。試合1時間前に到着し、足早にランボーに向かう。この試合のチケットはだいぶ値崩れしていたのだが、なんと外にダフ屋まで出ている。しかし今日勝てばまだわからない。崖っぷちだがまだ希望はある。
しかし今日は寒い。なんせこの日は今までのゲームの中でも一番の寒さで、Packer Zone調べでは-14℃となっている。空気が冷たすぎて息を吸うと喉元で空気が詰まる感じがする。そしていつものようにオープニングセレモニーを迎える。前日外にいた時にジェット機3機が飛行練習をしているのを目撃していた私は、皆にそのことを伝えいよいよ国歌斉唱が終わる。来たっ。あ、あれ?なんと3機で練習していたはずなのに1機足りず2機のジェット機がやってきた。風邪かな?しかし迫力は相変わらず凄まじいものがある。寒ければ寒いほど気分が高揚してくるというのは本当だ。絶対に負けられない。
試合はもつれにもつれ、残り2分。勝利を確信するに充分なプレーが出たと思ったら負けていた。残り0秒。相手チームのサヨナラFGが目の前のバーに吸い込まれていく。前半終了間際に外した距離とほぼ同じ40yrds。極寒のため石のように硬くなったフットボール。球場全体からのプレッシャー。少しでもFGが外れる要素を探して必死に祈った。選手がキッカーの目の前に飛び込む。しかし届かなかった。終戦。まさかの終戦。(Box Score)
たった3週間前ベアーズに圧勝し5勝5敗で3チームが並んだ。残り6試合、3チームで仕切りなおしだと意気込んでいたはずなのにまさかここで終わるとは。試合中あれだけヴァイキングスの結果が流れるたびにざわついていたのに、もう誰も気にしていない。帰りの車の中は皆無言だった。今シーズンはもう終わった。現実を受け入れるにはもう少し時間がかかりそうだった。
クリスマスが近づいてくると街中に華やかな雰囲気が溢れるのは世界中どこでも一緒だ。あちらこちらの家でこだわりの飾り付けを施しており、街を走っているだけでウキウキしてくる。うちでもガレージから電球などを引っ張り出し飾り付けを行う。いよいよクリスマス気分だ。ところで驚いたのはクリスマスツリーを買いに言った時の事。向かった先はお店ではなく、なんとクリスマスツリー畑だった。見渡す限りクリスマスツリー。雪を掻き分けて気に入ったツリーを見つけると、借りたノコギリでツリーをギコギコする。寒い地方ならではのことなのだろうか。ハッピーメリークリスマス。
26日。この日はクリスマスパーティーで知り合った人と一緒にカジノへ行くことになった。グリーンベイの街中でよく看板を見かける Oneida Casino だ。何店かある中で一番大きいという空港近くのカジノを選択。朝から車を走らせる。まさかこんな片田舎で私の Las Vegas 仕込みの腕前を披露する時が来るとは。私が以前住んでいた場所からVegasまでは車で4時間くらいで行けたので、その際に鍛えた腕を今こそ発揮するのだ。2回しか行ったことないけど。
適当なスロットマシーンを選び腰を下ろす。スロットマシーンしかルールわからないし。ジャックポット当たったら税金いくら取られるんだろう、などと考えながら遊ぶ。カジノ店内はきれいだったがアメリカにして未だに店内喫煙OKなのが気になった。バーでビールを飲みながら適当に約束の時間まで過ごす。途中、カジノ内の写真を撮っていたら警備員さんに怒られてしまった。結局半日遊んでなんとか20ドルの負けですんだ。大負けしなくて良かった。