グリーンベイ・パッカーズ ニュース

2002年10月 5日

WRドナルド・ドライバー物語

注目を浴びるWRとなった今も、チーム事情からスペシャルチームでのプレーを強いられているWRドナルド・ドライバー。リターナーでもない限り、普通は先発WRがやる仕事ではない。しかし彼は嫌な顔一つせず、フィールドに飛び出していく。チームを助けるためなら、どんなことでもやるのだ。そしてこれは、今に始まったことではない。少年時代、無一文となった家族の生活を支えるために、彼は車泥棒をしたり、クスリを売ることまでしたというのだ。それに比べれば。

すばしっこいから、少年ドナルドのニックネームは"Quickie"。今と同じように、常に笑みを絶やさず、少し痩せた体の、聡明な少年だった。ある時、母のボーイフレンドの借金を背負わされて、一家の財産は全て差し押さえられ、文字通り無一文になってしまう。今夜寝るところさえわからない生活。「車も盗んだし、クスリも売った。自分でクスリをやったことはないけど、路上でクスリを売るのも、生きていくためには仕方がなかった」

中学一年のころ、忘れられない思い出がある。車を盗んでパトカーに追いかけられている時、角を曲がったところで、女性が運転して道路にバックで出てきた車に、彼の車は衝突してしまったのだ。慌てて車を乗り捨てて逃げようとしたが、女性のケガが心配で戻ってみた。「それは年をとった女性で、彼女は『大丈夫よ』と言うから、僕は改めて逃げようとした。でも彼女は、『ウチのベランダに座ってなさい』と言ってくれて、信じた僕はその通りにしたんだ。警官が来ると彼女は、『犯人は走って逃げた。あそこにいるのはウチの孫だ』と言ってくれたんだ。そのあと僕を家に招き入れ、『そんなことしてちゃダメよ。あなたは若いんだから』と、その女性は言ってくれた」

この事件は大きく心に残ったものの、しかし家庭の事情から、悪事から足を洗うには至らない。翌年、ショッキングな出来事もあった。街角でクスリを売っている時、親友の1人から銃を突きつけられたのだ。「最初は冗談だと思った。親友だからね。でも彼は本当に僕の金とドラッグを獲ろうとしたんだ。本当に涙が出たよ」とドライバー。住む家もない、どん底の生活が1年半ほど続いた後、一家は母フェイ・グレイの義理の母を頼り、ようやく生活を立て直すきっかけをつかんだ。母は警備の仕事に就き、兄弟は学校に通うようになった。

兄弟は、近くのバプテスト教会に、週に何度も通うようになった。日曜はもちろんのこと、木曜は聖書の勉強、水曜は聖歌隊、その他いろいろな行事があった。「このような経験が今の彼を形作ったと思う。準備になったんだ。ある晩、あいつが 『いつか必ず出世する。他の誰が何と言おうと関係ない。いつか必ず成功してやる』と言っていたのを思い出すよ」と語るのは兄のマーヴィン。彼は今、バプテスト教会の牧師だ。

高校でドライバーは、陸上、フットボール、バスケ、野球で活躍し、アルコーン州立大へ。頭も良かった彼は、学業で苦労したことはあまりない。会計学の学位はすでに取った。「いつも言ってたんだ。『僕はスーツを着たい』 って。毎日スーツを着るには、会計学が一番良いと思ってさ」 と笑うドライバー。今はコンピューター科学の修士過程で勉強していて、来年の夏には修士号が取れそうだという。

ここまで話してくれば、プロに入ってからの苦労が、彼にとって大したことではないことがよくわかる。 今はチームを去った元同僚たちも、ドライバーの活躍を喜んでくれている。テキサンズでエースWRとなっているブラッドフォードは「去年でさえ、僕ら2人はもっとやれると思ってた。先発とは言わないまでも、もっとプレー機会があればね」と言う。フリーマンも「テリー・グレンも良いレシーバーだけど、僕がいなくなって一番よかったのは彼じゃないかと思う。ファーヴとの経験が一番多いし、システム的にもね。僕がいたせいで、足踏みしてたという面もあるかもしれないが、今は彼が良くやっているのが本当に嬉しいよ」

来春にはFAとなって、かなりの契約を手に入れることが確実視されている。そうなったら、母や、病気の祖母を楽にしてやりたいと思う。それを考える時だけは、温厚な彼も感情を抑えきれなくなる。しかし糖尿病や心臓病に苦しんでいる祖母はともかく、母はまだヒューストンのホテルの警備の仕事を続けていて、「もう引退したら」という孝行息子の願いをはねつけている。そして息子の金を受け取る時には、その資金で、貧しい人たちのためのデイケア・センターを開こうと決めているのだ。

「あの子はいつも、『もう家を買うかい? 車を買おうか?』って言うけれど、そんな物質的なことはどうでもいいのです。私たちは、あの状況を生き延びた。たくさんの苦しいことを耐えて生き抜いた子供たちのことが私の誇りなのです」と母は涙を流す。「あの子が私と同じように思っていることはよくわかる。私にいろいろな物をプレゼントしようとするけれど、そんなことしてくれなくても私は幸せ。彼には自分の好きなことをして、彼に出来る限り最高の選手になってほしい」

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