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けんちゃんの第32回スーパーボウル観戦記 (その11)

『あーあ』
スーパーボウルも終わっちゃたし、これからユマ(ヤクルトスワローズのキャンプ地ね)を通りルート66経由でラスベガスまで行くのです。弥次さん喜多さんの道中でそれはそれで面白いお話もいっぱいあるのですが、Packersとは直接関係がないので、それはまた次の機会に、ということにいたしましょう。で、Packersに関係のあるエピソードを少しだけ。


サンデイエゴ郊外のとあるインの駐車場で傷心の私は車のトランクに荷物を放り込んでおりました、92番のレジーホワイトのジャージーを着て。その時、駐車場の奥から出てきた車が『ブッ』と小さくクラクションを鳴らしました。どうやら私が進路を邪魔していたようです。私は「スマン、スマン」と手を挙げて車を少しだけ動かしました。件の車はソロソロと近付いてきましたが、直ぐ横でまた止まって出て行く気配がありません。
「おっかしいなあ、もう邪魔にはなっていない筈だが・・」 と些か不審に思いながら彼の車の運転席を見ました。運転席では屈強な大男がポパイの腕まくりのポーズをして私の方を見ていました。私と目が合った瞬間にウインクをしたその男はデンバーブロンコスの30番のジャージーを着ていました。そう、言うまでもない昨日のMVP、憎っくきテレル・デービス(引退しちゃったなあ。早すぎるよなあ。あのランはもう見れないのか。仇とりたかったのになあ。合掌。)のジャージーです。
「この野郎!」 咄嗟に事態を察した私はニヤリとして思わず、
『 See  you next  year. 』 と叫んでいました。すると、鷹揚に頷いた彼もニヤリとすると
『 I  hope  so. 』
と言うと、ローンレンジャーのように、ただし『ハイヨー、シルバー(わかります?)』じゃなく、再び一声高くクラクションを鳴らして、意気揚々と出発しました。

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Mさんがレンタカーでデスヴァレーに撮影に出かけちゃったので、ラスベガスではタクシーに乗りました。黒人のドライバーは私のジャージャーを見て
『Packersファンかい?』
『うん。今シーズンは最悪だったよ』
『どうしてだい。Packersは今年も素晴らしかったじゃないか。彼等はもしもBest OneじゃなくてもOne of the Bestだったよ。少なくともPackersは今年も偉大だったよ』
『でも、スーパーには負けてしまった・・』
その時、彼の言った言葉がふるっていました。
『両方勝つ訳にゃいかないさ』

これは次の年のハワイでの事ですが、Packersのキャップを日除けにして、プールの脇でうたた寝をしていると、大きな大きなガタイのおばさんがウイスコンシン訛り(か、どうかは知らないけれど、だろうと思う)で尋ねてきました。
『Packersのファンなのかい?』
『あたぼうよ』 と流暢なブロークンイングリッシュで私が答えると
『そうかい。あたしゃグリーンベイから避寒に来てるのさ。アイスボウルを知ってるかい?』
『ダラスカウボーイズ、21―17、バートスター』 と私。
おばさんは「話せるねえ、寿司食いねえ」とは言わなかったけれど、
『あたしの亭主はアイスボウルの生き証人だよ。いつもそれを自慢にしてるんだ』
とにっこり笑いました。
『旦那さんはどうしてるの』 と私が聞くと
『シーズン中はグリーンベイを離れないよ』

これ以外にもPackersのジャージーやキャップのおかげで愉しいことや嬉しいことはいっぱいありました。どこに行っても必ずといっていいくらい誰かが『調子はどーだい』とか『ハロー、レジー』とか言って話し掛けて来ます。私も調子に乗って『3サックス、ツウデイ』なんて答えたりしました。彼等は本当にNFLを、アメリカンフットボールを愛してるんです。以前ジャスティンさんが掲示板でおっしゃっていましたが、思うに、NFLって、アメリカンフットボールって
「米国文化の考え方が詰まっている・・試合のみならず、観戦するファンの側も同様・・フットボール(サンデー)はまさしく、米国文化のひとつの典型」
なんだと、私も思います。単に試合の勝ち負けだけではなく、そこにはきっとアメリカ人の心が染み付いている、アメリカ人の心の故郷があるに違いない。不屈の闘志、フロンティアスピリッツ、勇気、団結、忠誠心などなど、そうした雄々しきアメリカの魂がそこにはいっぱいつまっているような気がします。それはちょうど、彼等が彼等の先達の辿った道、ルート66をマザーロードとしていつまでも大切にする心に繋がるのかも知れません。
そして、勿論Packers。
グリーンベイの人達は勿論ですが、私にはたとえファンでない人達も、グリーンベイのような町がアメリカにあることを、Packersのようなチームがアメリカにあることをとても大事にしている、誇りに思っているように感じられました。短い旅だったけれど、私は身を持ってそれを感じとることが出来ました。

今では日本にもありますが、その頃はロスにしかなかったので、旅の終わりにはユニバーサルスタジオにも行きました。でも、一番愉しみにしていた「ジュラシックパーク」はお休みでした。で、この長い長い「観戦記」の最後に私のアメリカ旅行の日記の最後の部分を御紹介して「お終い」にしたい、と思います。皆様、長々とおつきあい、御愛読、本当にありがとうございました。シーズン開幕はもう目の前です。今年こそ!

「一番期待していった「ジュラシックパーク」がお休みなんて詐欺みたいなものである。でも、考えてみれば詐欺でもこれくらい楽しかったのだから大したものである。思えば、スーパーボウルもPackersは負けてしまった。Packersが負けても、あんなに幸福だったのである。これ以上望んでは罰が当たるかもしれない。あるいは私の人生は画竜点睛、最後の一点を欠いた人生なのかもしれない。結構である。完成した人生なんぞに興味はない。未完成ならばこそ明日に夢もあろう、というものではないか。」

THE END

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updated : 2002/08/29